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治療の普及が予防にも大きな効果 国際エイズ学会クレイグ・マクルア事務局長
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090112-00000535-san-int
今日本でもかなり広がっていると噂のAIDS。
早急に治療方法を確立してほしいですね。
1月12日16時24分配信 産経新聞
エイズ対策関連の多様な専門家が集まる国際エイズ学会(IAS)は、世界規模の国際エイズ会議を主催する学際的な組織として知られている。クレイグ・マクルア氏は5年前、その事務局長に就任。IASを名実ともに世界のエイズとの闘いで主導的な役割を果たす組織に再編するための改革を進めてきた。国際保健分野における日本の貢献への期待も大きく、事務局長就任以来3度、日本を訪れている。
昨年末、3度目の来日の機会に、世界のエイズとの闘いの現状と課題、および金融危機のもとでの国際保健課題の展望などについて聞いた。
−−IASは1988年に発足していますね。どんな団体なのでしょうか。
HIV/エイズ分野の専門家の組織としては世界最大の団体です。研究者、保健医療従事者、NGOのメンバー、各国政策担当者ら183カ国1万3000人の会員がいます。私が事務局長に就任した当時は6000人でしたが、5年間で組織は急拡大しました。2008年のノーベル医学生理学賞を受賞したフランソワーズ・バレシヌシ博士もIASの理事の一人です。同時に受賞したリュック・モンタニエ博士とともに、フランスのパスツール研究所でエイズの原因ウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)を発見した業績が認められました。
−−日本の会員は?
73人です。東京大学医科学研究所の岩本愛吉教授には、アジア太平洋地域代表の理事として貢献していただいていますが、もっと多くの研究者が参加することを期待しています。IASは保健・開発分野で世界最大の会議である国際エイズ会議を開催する組織として発足し、現在もその会議の主催団体として最もよく知られています。
−−国際エイズ会議は94年に第10回会議が横浜で開かれています。当時は毎年開催でしたが、いまは隔年開催ですね。
横浜の次のバンクーバー会議から隔年開催になりました。2008年8月にはメキシコシティで第17回会議が開かれ、次回は2010年のウィーンです。その間の年にはHIVの基礎科学、臨床、予防に関する研究を中心に専門的な会議を開催しており、こちらは2009年に第5回会議が南アフリカのケープタウンで開かれます。その他、エイズに関する教育、情報提供活動や、HIV/エイズ分野で必要な政策の実現を各国政府に求める活動も行っています。
−−8月のメキシコ会議(AIDS2008)は巨大な規模の会議でした。
194カ国から2万4000人が参加し、このうち2000人は取材にあたる各国ジャーナリストです。ラテンアメリカでは初の開催だったので、ラテンアメリカ・カリブ諸国からの参加者が38%を占めていました。また、参加した人の半数は国際エイズ会議に出るのは初めてという人で、HIV/エイズ分野で経験豊富な人たちと新しくこの分野に関与するようになった人たちとの交流の機会ができました。
−−内容的にはどんな成果があったのですか。
4つの主要なメッセージがありました。第一に治療がHIV感染の予防にも大きな役割を果たしていることが一段とはっきりしてきました。3種類以上の抗レトロウイルス薬を組み合わせて使う多剤併用療法に関しては、すでに10年以上の経験の蓄積があります。感染した人の体内のHIV量を減らし、その結果、HIV陽性者の免疫の力を保ち、HIVが免疫システムを破壊するのを食い止めているのですが、その治療法がすでに、2つの分野でHIV感染の予防にも効果をあげています。
−−ひとつは母子感染の予防ですね。
そうです。HIVに感染した妊婦から生まれる赤ちゃんへの母子感染を防ぐために抗レトロウイルス薬が使われています。もう一つは、保健医療従事者が注射針の針刺し事故などでHIVに感染した可能性があるときの対策ですね。あるいは24〜48時間以内に性行為や薬物注射でHIVに感染した可能性があるといったケースも含まれます。いわゆる曝露後感染予防です。そうしたケースでは、抗レトロウイルス治療を1カ月間、続けることで感染を防ぐことが可能です。
−−メキシコ会議では、それ以外にも、治療を予防の手段にすることが検討されたのですか。
普遍的アクセスの実現に関する議論が数多くありました。抗レトロウイルス治療を必要な人すべてに提供できる状態が普遍的アクセスです。現状は必要な人の30%程度ですが、国連では3年前、普遍的アクセスを2010年に達成することに全加盟国が合意しました。その目標の実現に向けて新たに浮上しているのが予防戦略として治療をとらえる考え方です。治療の必要な人が早期に抗レトロウイルス治療を受け、HIVの量を個人の体内からもコミュニティ全体としても減らしていければ、新たな感染は起きにくくなり、新規感染の劇的な減少につながるのではないかと考えられています。
−−現状の30%程度のままでは、それは困難ということですね。
予防対策としての治療について詳しく議論する専門家会合を2月に開く予定です。検査の普及をはかり、HIVに感染している人が自らの感染を知ることが治療のアクセス拡大の前提になるのですが、そのためには人権の意識を高める必要があります。差別から守られるようにHIV陽性者の権利が保障されなければ、安心して検査を受けに来る人は大きく減ります。HIVに感染していてもそれを知らなければ、治療は受けられない。感染した人の多くが治療も受けられない状態で新規感染の減少を期待することはできません。もちろん、これは他の予防策はいらないということではありません。コンドームの使用、きれいな注射針や注射器の確保といった感染予防の努力は大切であり、そこに新たに加わったのが治療の提供は感染の拡大防止の観点からも重要だという考え方なのです。
−−次のメッセージは?
HIV/エイズ対策を保健システム全体の強化につなげるということです。とりわけサハラ以南のアフリカ地域では、それが重要です。HIV/エイズ対策はすでに27年の経験があるのですが、最初の20年あまりは失敗の歴史であり、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)や米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)、日本を含む主要8カ国(G8)政府の援助、さらにゲイツ財団のような民間財団も含め、巨額な資金が投じられるようになったのはこの5年か6年のことです。
−−対策が進んだことで逆に、全体の保健基盤の脆弱さが課題としてとらえられるようになったわけですね。
巨額の資金を治療や予防に活用する際、初めの2、3年はパイロットプログラムの実施が中心なので比較的、やりやすいといえるでしょう。だが、その次の段階になると、困難な現実に直面せざるを得ない。新たな対策を離陸させるのに十分なだけの保健基盤が整っていない国も多い。HIV/エイズ対策を進める観点からも途上国の保健基盤の強化は重要です。
−−3番目はどんなメッセージですか。
社会的な公正と人権についてです。社会の中で取り残された人々、HIVに感染しやすい立場に置かれている人々の人権が守られなければ、HIVに感染しているけれど治療は受けられない人が増えていくことになります。アフリカではHIV陽性者の半数は少女を含む女性です。世界全体で見ると、感染のリスクに最もさらされやすいのは、男性と性行為をする男性(MSM)、薬物使用者、セックスワーカーといった人たちです。その人たちの人権が守られないことからHIVの感染が広がっている現状が世界にはあります。人権を守るのはいいことだというだけでなく、予防の観点からも重要です。
−−売春や薬物使用は多くの国で犯罪として取り締まり対象になっています。
メキシコ会議の議論がはっきり示しているのは、同性愛行為に対しても売春に対しても、性行為の犯罪化がその対象となるコミュニティの人々に情報やカウンセリング、コンドームなどの予防の手段に対するアクセスの確保を困難にしているということです。検査や治療を受けることもできません。薬物依存については慢性疾患としてとらえるアプローチがあります。司法警察的な取り締まりから、リハビリテーションや情報提供とカウンセリングに力を入れる公衆衛生的なアプローチへと焦点を移さない限り、薬物使用がHIV感染の拡大に拍車をかける状態は続くでしょう。
−−難しい問題ですね。第4のメッセージは?
それぞれの地域の流行を理解するということです。サハラ以南のアフリカではHIVの流行は社会全体に広がっています。男性も女性も同性愛者も異性愛者も病気にかかっています。だが、それ以外の世界のほとんどの地域では、流行は特定のコミュニティに集中しています。中央アジアとロシアではHIV感染の70%は薬物注射使用による感染です。西ヨーロッパとアジアの多くの地域、北米、オーストラリアでは、男性と性行為をする男性(MSM)の流行が中心で、それに薬物注射使用者の流行が加わります。それぞれの国はそれぞれの流行に合わせた対応が必要です。例えば現実の課題がMSMの間の流行や薬物使用者の流行である場合には、一般的なHIV感染予防の情報に資金を浪費するより、焦点を絞った対策が必要です。
−−アジアはどうでしょうか。
アジア太平洋地域には過去20年間、セックスワーカーとの協力で大きな成果をあげた国があります。最近では薬物使用者の流行に対しても成果が報告されています。マレーシアではこの2年間、薬物注射使用者に対するハームリダクション(被害軽減)プログラムが拡大されてメタドン(麻薬の代替薬)はすでに非合法ではなくなり、何万もの人がメタドン治療プログラムを受けています。台湾ではHIV感染が爆発的に拡大したことから総合的なハームリダクションプログラムを導入し、最近2年間で新規感染を劇的に減らすことに成功しました。これらは大きな成果ですが、それで闘いが終わったというわけではありません。
−−アジアの流行に関する報告書では、男性間の性感染の拡大が懸念されていますね。
男性同性愛者、あるいはMSM(男性と性行為をする男性)の間でのHIV感染の増加は、深刻な課題です。アジア太平洋地域の多くの国で同性愛者への差別が強く残っている中で積極的に検査を受けることは困難でしょう。メキシコ会議でもアジア太平洋地域における過去3年間のMSMのHIV感染の劇的な拡大が大きな課題として議論されました。
−−メキシコ会議の後、世界は金融危機という大変動に見舞われています。その影響は?
世界の経済の状態は非常に厳しいものがあります。HIV/エイズ対策の観点からすると、それでも過去5年に達成した成果は継続させていかなければならない。20年間の失敗の歴史のあとで、われわれは何とかこの5年間の成功をもたらすことができました。少なくとも30%の人が治療を受けられるようになり、HIVに感染した妊婦の35%が母子感染防止のための治療を受けています。
−−資金面では、かなり厳しくなりそうですが。
経済状況が悪いので得られる資金も減ってくる。それはしょうがないと諦める人もいます。20年前なら確かに、経済的な発展があって初めて保健医療の基盤を整え、教育を充実させることができるというのが世界の指導者の考え方だったでしょう。しかし、指導者たちはすでに、保健医療や教育が開発の土台になることに気付いています。発展を得るには、人々が健康であり教育を受けられることが大前提です。考え方は変わっています。日本を含む主要国政府はエイズ対策分野で合計数千億ドルの投資を約束していますが、実際に投資されている資金は年間100億ドル程度です。IASの研究者たちは各国政府に手紙を出し、途上国の保健医療や教育への投資の必要性に理解を得る活動を行っています。
−−金融危機を理由に約束を果たさなければ、先進国にも結局、大きなツケが回ってくるでしょうね。
当然のことですが、いま必要な投資を怠れば、近い将来、保健医療分野の状況は悪化し、もっと大きな資金負担が必要になります。とりわけ感染症であるHIV/エイズの予防への投資は重要です。経済の刺激策はもちろん大切ですが、途上国への支援、保健への投資、とりわけHIV/エイズ対策への投資も同時に必要であることは訴え続けています。
−−2009年7月に南アフリカのケープタウンで開かれる医学中心の会議、および10年の第18回国際エイズ会議(ウィーン)はどんな会議になるのでしょうか。
ケープタウン会議では、南アの政権交代がHIV/エイズ対策に好影響を与えることを期待しています。南アはこれまで、HIVはエイズの原因ではないという考えの人が保健大臣でしたが、新大臣のバーバラ・ホーガンさんはHIVがエイズの病原ウイルスであると考えています。2010年のウィーンは東欧と西欧の架け橋になる都市です。旧ソ連・東欧地域では薬物使用によるHIV感染の流行が拡大しているので、そこに焦点が当てられることになるでしょう。
−−オバマ政権発足に先立ち、米国ではブッシュ政権時代の2008年7月、HIV陽性者に対する入国規制撤廃が決まりました。エイズ対策でも米国の動きが注目されています。
IASは入国規制、渡航規制の問題を重要視しており、この問題に関する国際作業委員会では国連合同エイズ計画(UNAIDS)とともに議長となっています。規制政策をとる国の政府に対し、そのような政策は根拠のないものであるということを理解してもらうにはどうしたらいいか。それが大きな課題です。我々はこの問題に関し「渡航規制について知っておくべき10項目」という冊子を作りました。HIV陽性者の入国を規制している国、入国時にHIV感染の有無を宣告するよう要求する国、陽性者の滞在を禁じ、感染が分かれば国外に追放する国、いろいろあります。そうした規制は、公衆衛生政策の観点からも、人権尊重の観点からも、根拠のないものです。
−−米国はどうだったのですか。
HIV陽性者の入国を規制している世界の約30カ国のうちの一つでした。陽性者が米国を訪問するにはウェーバー(許可証)を申請しなければならず、入国は認められるかもしれないし、認められないかもしれない。認められても、パスポートにはHIV陽性と大きくスタンプが押されることになります。
−−入国規制があるので米国では国際エイズ会議が開けなかったのですね。
過去20年間、国際エイズ会議は米国で開かれていません。しかし、2008年7月に米国議会が第2期米大統領エイズ・結核・マラリア救済緊急計画(PEPFAR)を承認し、そのための新しい法律にはPEPFARの5年間の延長のほか、HIV陽性者に対する入国規制の撤廃も盛り込まれています。つまり、法律上の規制はもうないのですが、それに伴って実際の政策が転換されなければ現実に規制がなくなったことにはなりません。米国政府関係者の話では、その政策の見直しに数カ月かかるということで、進捗状況を注視しているところです。
−−政策が変わればウィーンの次の2012年はワシントン会議ですか。
そうなることを期待しています。Yes We Canですよ。
−−最近は医療機関主導のHIV検査の必要性がしばしば指摘されるそうですが、逆にそれが実質的な強制検査になることを懸念する反対論も強い。この点をどう考えていますか。
本人の意思に反して検査を強要するような方法に対し、IASは常に反対してきました。その一方で、強制することなくHIV検査を受けられる機会を拡大するための努力に関しては支持しています。
−− 患者の希望を受けて行う検査だけでなく、医師や看護師が患者に対し、HIV感染の有無を調べる検査を受けるよう積極的に勧める手法は「提供者主導の検査とカウンセリング」(PITC)と呼ばれています。このPITCはどうでしょうか。
HIV検査に関する知識を伝え、検査を受ける機会を広げる可能性があると思います。HIV検査について世界保健機関(WHO)は昨年、ガイドラインを出しています。そこでは、広汎流行期(HIV感染の流行が社会全体に拡大している状態)の国では、医療機関を訪れるすべての人に医療機関側から検査を勧めることを推奨しています。また、局限流行期(社会全体には拡大していないが、社会の中にHIV陽性率5%を超える集団がある状態)では、流行が拡大しているコミュニティのメンバーに医療機関から検査を勧めるようにした方がいいとの見解を示しています。
−−PITCはオプトアウト方式(受けたくないという意思を表明した人以外は全員が受ける方式)の検査でもあります。オプトアウトに踏み切るには、それなりの条件整備が必要なのでは?
人々がやってきて検査を受けたいというのを待つのではなく、検査を受けるように勧めていくことは、検査の機会を広げる良い方法ですが、それには前提として人々が安心して検査を受けられる環境が整っていなければならない。HIV感染が分かると、仕事を失ったり、就労や保険の面で不利な扱いを受けたりするようなことがないようにしなければ、検査の普及は望めません。
−−この点はWHOのガイドラインでも強調されているようですね。
誰にでも認められている権利は、HIV陽性者にもきちんと保障されなければならない。医療を受ける権利も当然、そこに含まれます。医療機関側がHIV陽性者に対する医療の提供を避けるために検査を行うなどというのは論外ですね。同じように、HIVの流行が広がっているコミュニティも差別や迫害を受けることがないよう権利は守られなければならない。検査を受ければ、それだけで男性同性愛者や薬物使用者であると見なされる国もあります。誰であるかということで罪に問われるようでは安心して検査を受けることなど到底、望めません。人権を守れるよう、きちんとバランスの取れた法律や政策が必要です。
■クレイグ・マクルア(Craig McClure) カナダのNGO「Canadian Treatment Information Exchange」やニューヨークを拠点とする国際エイズワクチン推進構想(IAVI)でHIV治療に関する情報提供やワクチン開発のための政策策定、教育、提言活動などに取り組んだ後、2003から世界保健機関(WHO)で抗レトロウイルス治療普及のための「3バイ5計画」を担当。04年に国際エイズ学会(IAS)事務局長に就任した。国際エイズ会議の運営にあたるとともに、HIV/エイズ研究の促進、予防・治療の普及、HIV陽性者とHIV感染のリスクにさらされやすい人たちへの偏見や差別の解消などに取り組む。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090112-00000535-san-int
今日本でもかなり広がっていると噂のAIDS。
早急に治療方法を確立してほしいですね。
1月12日16時24分配信 産経新聞
エイズ対策関連の多様な専門家が集まる国際エイズ学会(IAS)は、世界規模の国際エイズ会議を主催する学際的な組織として知られている。クレイグ・マクルア氏は5年前、その事務局長に就任。IASを名実ともに世界のエイズとの闘いで主導的な役割を果たす組織に再編するための改革を進めてきた。国際保健分野における日本の貢献への期待も大きく、事務局長就任以来3度、日本を訪れている。
昨年末、3度目の来日の機会に、世界のエイズとの闘いの現状と課題、および金融危機のもとでの国際保健課題の展望などについて聞いた。
−−IASは1988年に発足していますね。どんな団体なのでしょうか。
HIV/エイズ分野の専門家の組織としては世界最大の団体です。研究者、保健医療従事者、NGOのメンバー、各国政策担当者ら183カ国1万3000人の会員がいます。私が事務局長に就任した当時は6000人でしたが、5年間で組織は急拡大しました。2008年のノーベル医学生理学賞を受賞したフランソワーズ・バレシヌシ博士もIASの理事の一人です。同時に受賞したリュック・モンタニエ博士とともに、フランスのパスツール研究所でエイズの原因ウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)を発見した業績が認められました。
−−日本の会員は?
73人です。東京大学医科学研究所の岩本愛吉教授には、アジア太平洋地域代表の理事として貢献していただいていますが、もっと多くの研究者が参加することを期待しています。IASは保健・開発分野で世界最大の会議である国際エイズ会議を開催する組織として発足し、現在もその会議の主催団体として最もよく知られています。
−−国際エイズ会議は94年に第10回会議が横浜で開かれています。当時は毎年開催でしたが、いまは隔年開催ですね。
横浜の次のバンクーバー会議から隔年開催になりました。2008年8月にはメキシコシティで第17回会議が開かれ、次回は2010年のウィーンです。その間の年にはHIVの基礎科学、臨床、予防に関する研究を中心に専門的な会議を開催しており、こちらは2009年に第5回会議が南アフリカのケープタウンで開かれます。その他、エイズに関する教育、情報提供活動や、HIV/エイズ分野で必要な政策の実現を各国政府に求める活動も行っています。
−−8月のメキシコ会議(AIDS2008)は巨大な規模の会議でした。
194カ国から2万4000人が参加し、このうち2000人は取材にあたる各国ジャーナリストです。ラテンアメリカでは初の開催だったので、ラテンアメリカ・カリブ諸国からの参加者が38%を占めていました。また、参加した人の半数は国際エイズ会議に出るのは初めてという人で、HIV/エイズ分野で経験豊富な人たちと新しくこの分野に関与するようになった人たちとの交流の機会ができました。
−−内容的にはどんな成果があったのですか。
4つの主要なメッセージがありました。第一に治療がHIV感染の予防にも大きな役割を果たしていることが一段とはっきりしてきました。3種類以上の抗レトロウイルス薬を組み合わせて使う多剤併用療法に関しては、すでに10年以上の経験の蓄積があります。感染した人の体内のHIV量を減らし、その結果、HIV陽性者の免疫の力を保ち、HIVが免疫システムを破壊するのを食い止めているのですが、その治療法がすでに、2つの分野でHIV感染の予防にも効果をあげています。
−−ひとつは母子感染の予防ですね。
そうです。HIVに感染した妊婦から生まれる赤ちゃんへの母子感染を防ぐために抗レトロウイルス薬が使われています。もう一つは、保健医療従事者が注射針の針刺し事故などでHIVに感染した可能性があるときの対策ですね。あるいは24〜48時間以内に性行為や薬物注射でHIVに感染した可能性があるといったケースも含まれます。いわゆる曝露後感染予防です。そうしたケースでは、抗レトロウイルス治療を1カ月間、続けることで感染を防ぐことが可能です。
−−メキシコ会議では、それ以外にも、治療を予防の手段にすることが検討されたのですか。
普遍的アクセスの実現に関する議論が数多くありました。抗レトロウイルス治療を必要な人すべてに提供できる状態が普遍的アクセスです。現状は必要な人の30%程度ですが、国連では3年前、普遍的アクセスを2010年に達成することに全加盟国が合意しました。その目標の実現に向けて新たに浮上しているのが予防戦略として治療をとらえる考え方です。治療の必要な人が早期に抗レトロウイルス治療を受け、HIVの量を個人の体内からもコミュニティ全体としても減らしていければ、新たな感染は起きにくくなり、新規感染の劇的な減少につながるのではないかと考えられています。
−−現状の30%程度のままでは、それは困難ということですね。
予防対策としての治療について詳しく議論する専門家会合を2月に開く予定です。検査の普及をはかり、HIVに感染している人が自らの感染を知ることが治療のアクセス拡大の前提になるのですが、そのためには人権の意識を高める必要があります。差別から守られるようにHIV陽性者の権利が保障されなければ、安心して検査を受けに来る人は大きく減ります。HIVに感染していてもそれを知らなければ、治療は受けられない。感染した人の多くが治療も受けられない状態で新規感染の減少を期待することはできません。もちろん、これは他の予防策はいらないということではありません。コンドームの使用、きれいな注射針や注射器の確保といった感染予防の努力は大切であり、そこに新たに加わったのが治療の提供は感染の拡大防止の観点からも重要だという考え方なのです。
−−次のメッセージは?
HIV/エイズ対策を保健システム全体の強化につなげるということです。とりわけサハラ以南のアフリカ地域では、それが重要です。HIV/エイズ対策はすでに27年の経験があるのですが、最初の20年あまりは失敗の歴史であり、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)や米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)、日本を含む主要8カ国(G8)政府の援助、さらにゲイツ財団のような民間財団も含め、巨額な資金が投じられるようになったのはこの5年か6年のことです。
−−対策が進んだことで逆に、全体の保健基盤の脆弱さが課題としてとらえられるようになったわけですね。
巨額の資金を治療や予防に活用する際、初めの2、3年はパイロットプログラムの実施が中心なので比較的、やりやすいといえるでしょう。だが、その次の段階になると、困難な現実に直面せざるを得ない。新たな対策を離陸させるのに十分なだけの保健基盤が整っていない国も多い。HIV/エイズ対策を進める観点からも途上国の保健基盤の強化は重要です。
−−3番目はどんなメッセージですか。
社会的な公正と人権についてです。社会の中で取り残された人々、HIVに感染しやすい立場に置かれている人々の人権が守られなければ、HIVに感染しているけれど治療は受けられない人が増えていくことになります。アフリカではHIV陽性者の半数は少女を含む女性です。世界全体で見ると、感染のリスクに最もさらされやすいのは、男性と性行為をする男性(MSM)、薬物使用者、セックスワーカーといった人たちです。その人たちの人権が守られないことからHIVの感染が広がっている現状が世界にはあります。人権を守るのはいいことだというだけでなく、予防の観点からも重要です。
−−売春や薬物使用は多くの国で犯罪として取り締まり対象になっています。
メキシコ会議の議論がはっきり示しているのは、同性愛行為に対しても売春に対しても、性行為の犯罪化がその対象となるコミュニティの人々に情報やカウンセリング、コンドームなどの予防の手段に対するアクセスの確保を困難にしているということです。検査や治療を受けることもできません。薬物依存については慢性疾患としてとらえるアプローチがあります。司法警察的な取り締まりから、リハビリテーションや情報提供とカウンセリングに力を入れる公衆衛生的なアプローチへと焦点を移さない限り、薬物使用がHIV感染の拡大に拍車をかける状態は続くでしょう。
−−難しい問題ですね。第4のメッセージは?
それぞれの地域の流行を理解するということです。サハラ以南のアフリカではHIVの流行は社会全体に広がっています。男性も女性も同性愛者も異性愛者も病気にかかっています。だが、それ以外の世界のほとんどの地域では、流行は特定のコミュニティに集中しています。中央アジアとロシアではHIV感染の70%は薬物注射使用による感染です。西ヨーロッパとアジアの多くの地域、北米、オーストラリアでは、男性と性行為をする男性(MSM)の流行が中心で、それに薬物注射使用者の流行が加わります。それぞれの国はそれぞれの流行に合わせた対応が必要です。例えば現実の課題がMSMの間の流行や薬物使用者の流行である場合には、一般的なHIV感染予防の情報に資金を浪費するより、焦点を絞った対策が必要です。
−−アジアはどうでしょうか。
アジア太平洋地域には過去20年間、セックスワーカーとの協力で大きな成果をあげた国があります。最近では薬物使用者の流行に対しても成果が報告されています。マレーシアではこの2年間、薬物注射使用者に対するハームリダクション(被害軽減)プログラムが拡大されてメタドン(麻薬の代替薬)はすでに非合法ではなくなり、何万もの人がメタドン治療プログラムを受けています。台湾ではHIV感染が爆発的に拡大したことから総合的なハームリダクションプログラムを導入し、最近2年間で新規感染を劇的に減らすことに成功しました。これらは大きな成果ですが、それで闘いが終わったというわけではありません。
−−アジアの流行に関する報告書では、男性間の性感染の拡大が懸念されていますね。
男性同性愛者、あるいはMSM(男性と性行為をする男性)の間でのHIV感染の増加は、深刻な課題です。アジア太平洋地域の多くの国で同性愛者への差別が強く残っている中で積極的に検査を受けることは困難でしょう。メキシコ会議でもアジア太平洋地域における過去3年間のMSMのHIV感染の劇的な拡大が大きな課題として議論されました。
−−メキシコ会議の後、世界は金融危機という大変動に見舞われています。その影響は?
世界の経済の状態は非常に厳しいものがあります。HIV/エイズ対策の観点からすると、それでも過去5年に達成した成果は継続させていかなければならない。20年間の失敗の歴史のあとで、われわれは何とかこの5年間の成功をもたらすことができました。少なくとも30%の人が治療を受けられるようになり、HIVに感染した妊婦の35%が母子感染防止のための治療を受けています。
−−資金面では、かなり厳しくなりそうですが。
経済状況が悪いので得られる資金も減ってくる。それはしょうがないと諦める人もいます。20年前なら確かに、経済的な発展があって初めて保健医療の基盤を整え、教育を充実させることができるというのが世界の指導者の考え方だったでしょう。しかし、指導者たちはすでに、保健医療や教育が開発の土台になることに気付いています。発展を得るには、人々が健康であり教育を受けられることが大前提です。考え方は変わっています。日本を含む主要国政府はエイズ対策分野で合計数千億ドルの投資を約束していますが、実際に投資されている資金は年間100億ドル程度です。IASの研究者たちは各国政府に手紙を出し、途上国の保健医療や教育への投資の必要性に理解を得る活動を行っています。
−−金融危機を理由に約束を果たさなければ、先進国にも結局、大きなツケが回ってくるでしょうね。
当然のことですが、いま必要な投資を怠れば、近い将来、保健医療分野の状況は悪化し、もっと大きな資金負担が必要になります。とりわけ感染症であるHIV/エイズの予防への投資は重要です。経済の刺激策はもちろん大切ですが、途上国への支援、保健への投資、とりわけHIV/エイズ対策への投資も同時に必要であることは訴え続けています。
−−2009年7月に南アフリカのケープタウンで開かれる医学中心の会議、および10年の第18回国際エイズ会議(ウィーン)はどんな会議になるのでしょうか。
ケープタウン会議では、南アの政権交代がHIV/エイズ対策に好影響を与えることを期待しています。南アはこれまで、HIVはエイズの原因ではないという考えの人が保健大臣でしたが、新大臣のバーバラ・ホーガンさんはHIVがエイズの病原ウイルスであると考えています。2010年のウィーンは東欧と西欧の架け橋になる都市です。旧ソ連・東欧地域では薬物使用によるHIV感染の流行が拡大しているので、そこに焦点が当てられることになるでしょう。
−−オバマ政権発足に先立ち、米国ではブッシュ政権時代の2008年7月、HIV陽性者に対する入国規制撤廃が決まりました。エイズ対策でも米国の動きが注目されています。
IASは入国規制、渡航規制の問題を重要視しており、この問題に関する国際作業委員会では国連合同エイズ計画(UNAIDS)とともに議長となっています。規制政策をとる国の政府に対し、そのような政策は根拠のないものであるということを理解してもらうにはどうしたらいいか。それが大きな課題です。我々はこの問題に関し「渡航規制について知っておくべき10項目」という冊子を作りました。HIV陽性者の入国を規制している国、入国時にHIV感染の有無を宣告するよう要求する国、陽性者の滞在を禁じ、感染が分かれば国外に追放する国、いろいろあります。そうした規制は、公衆衛生政策の観点からも、人権尊重の観点からも、根拠のないものです。
−−米国はどうだったのですか。
HIV陽性者の入国を規制している世界の約30カ国のうちの一つでした。陽性者が米国を訪問するにはウェーバー(許可証)を申請しなければならず、入国は認められるかもしれないし、認められないかもしれない。認められても、パスポートにはHIV陽性と大きくスタンプが押されることになります。
−−入国規制があるので米国では国際エイズ会議が開けなかったのですね。
過去20年間、国際エイズ会議は米国で開かれていません。しかし、2008年7月に米国議会が第2期米大統領エイズ・結核・マラリア救済緊急計画(PEPFAR)を承認し、そのための新しい法律にはPEPFARの5年間の延長のほか、HIV陽性者に対する入国規制の撤廃も盛り込まれています。つまり、法律上の規制はもうないのですが、それに伴って実際の政策が転換されなければ現実に規制がなくなったことにはなりません。米国政府関係者の話では、その政策の見直しに数カ月かかるということで、進捗状況を注視しているところです。
−−政策が変わればウィーンの次の2012年はワシントン会議ですか。
そうなることを期待しています。Yes We Canですよ。
−−最近は医療機関主導のHIV検査の必要性がしばしば指摘されるそうですが、逆にそれが実質的な強制検査になることを懸念する反対論も強い。この点をどう考えていますか。
本人の意思に反して検査を強要するような方法に対し、IASは常に反対してきました。その一方で、強制することなくHIV検査を受けられる機会を拡大するための努力に関しては支持しています。
−− 患者の希望を受けて行う検査だけでなく、医師や看護師が患者に対し、HIV感染の有無を調べる検査を受けるよう積極的に勧める手法は「提供者主導の検査とカウンセリング」(PITC)と呼ばれています。このPITCはどうでしょうか。
HIV検査に関する知識を伝え、検査を受ける機会を広げる可能性があると思います。HIV検査について世界保健機関(WHO)は昨年、ガイドラインを出しています。そこでは、広汎流行期(HIV感染の流行が社会全体に拡大している状態)の国では、医療機関を訪れるすべての人に医療機関側から検査を勧めることを推奨しています。また、局限流行期(社会全体には拡大していないが、社会の中にHIV陽性率5%を超える集団がある状態)では、流行が拡大しているコミュニティのメンバーに医療機関から検査を勧めるようにした方がいいとの見解を示しています。
−−PITCはオプトアウト方式(受けたくないという意思を表明した人以外は全員が受ける方式)の検査でもあります。オプトアウトに踏み切るには、それなりの条件整備が必要なのでは?
人々がやってきて検査を受けたいというのを待つのではなく、検査を受けるように勧めていくことは、検査の機会を広げる良い方法ですが、それには前提として人々が安心して検査を受けられる環境が整っていなければならない。HIV感染が分かると、仕事を失ったり、就労や保険の面で不利な扱いを受けたりするようなことがないようにしなければ、検査の普及は望めません。
−−この点はWHOのガイドラインでも強調されているようですね。
誰にでも認められている権利は、HIV陽性者にもきちんと保障されなければならない。医療を受ける権利も当然、そこに含まれます。医療機関側がHIV陽性者に対する医療の提供を避けるために検査を行うなどというのは論外ですね。同じように、HIVの流行が広がっているコミュニティも差別や迫害を受けることがないよう権利は守られなければならない。検査を受ければ、それだけで男性同性愛者や薬物使用者であると見なされる国もあります。誰であるかということで罪に問われるようでは安心して検査を受けることなど到底、望めません。人権を守れるよう、きちんとバランスの取れた法律や政策が必要です。
■クレイグ・マクルア(Craig McClure) カナダのNGO「Canadian Treatment Information Exchange」やニューヨークを拠点とする国際エイズワクチン推進構想(IAVI)でHIV治療に関する情報提供やワクチン開発のための政策策定、教育、提言活動などに取り組んだ後、2003から世界保健機関(WHO)で抗レトロウイルス治療普及のための「3バイ5計画」を担当。04年に国際エイズ学会(IAS)事務局長に就任した。国際エイズ会議の運営にあたるとともに、HIV/エイズ研究の促進、予防・治療の普及、HIV陽性者とHIV感染のリスクにさらされやすい人たちへの偏見や差別の解消などに取り組む。
2009.01.12 17:21 | 未分類 |
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